挨拶の思い出
私が小学校低学年だった頃 毎朝登校すると、用務員のおじさんが椅子や机を直していました。 用務員室は、学校の玄関近くにあり、 狭く暗い室内でひとり、いつもドアを開けて作業をしていました。 私は、毎朝その前を通り、 「おはようございます」と元気に挨拶をしました。 学校も先生(大人)も嫌いでしたが、この時は、笑顔になれる瞬間です。 その返す優しい笑顔で、学校生活を乗りきったと言っても良いでしょう。 学校帰りは 背後から「さようなら」と 振り返り際に挨拶をして貰い、 その自転車を漕ぐ姿を、曲がり角まで目で追いながら帰りました。 私の小学校は1クラス42名前後が5クラスあり、 全学年で1200名以上の大きい学校した。 用務員の仕事は、さぞ忙しかったに違いありませんが、 70代後半でボランティアだったのだろうと思います。 担任の先生には目が合わない日があっても、必ず目が合う人で、 当時は、私を温かく見守ってくれる人だと感じ、 同時に仕事への感謝を、挨拶に代えていたんだと思います。 3年生になった頃のある日、私が帰宅すると母が言いました。 用務員のおじさんが家に来て、 「こちらの娘さんに、いつも元気に挨拶をしてもらい嬉しかった」と仰り、 今日で仕事を辞めることを告げに訪ねられました。 これが私への最後の挨拶でした。 めったに褒めない母から、私は褒められたようで嬉しく感じましたが、 もう学校で用務員のおじさんに会えない寂しさといったら… 当たり前の挨拶が、その時から貴重な行為に変わりました。 私の娘には、挨拶の魅力を伝えています、 笑顔が忘れられない、この思い出とともに。